ご存じの シューベルトの三大歌曲の一つ、「美しき水車小屋の娘」は、シューベルトが 詩人ヴィルヘルム・ミュラー(Johann Ludwig Wilhelm Müller、独、1794- 1827)の詩に曲を付けた 全20曲からなる歌曲集です。
その中から、リストがピアノ独奏用に編曲した「第19曲 粉屋と小川(Der Müller und der Bach)」を聴いてみたいと思います。
今回は、知られざる名曲というより、知られざる名演奏かも知れません。
※なお、粉屋とは、水車の動力によって、収穫した麦を挽き、粉状にしてパンの材料を作る職人のことです。

画像 ACワークス
W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩
第19曲
「若者と小川」
(Der Müller und der Bach)
この訳詞では、粉屋を若者とする
若者
まことの恋が 破れるとき
百合の花も枯れて 地に落ちる
月は雲間に 隠れてゆく
私の涙を 見せないように
天使もその眼を 閉じたまま
すすり泣きながら 眠りへ誘う
小川
苦しい恋が 過ぎ去れば
夜空に 光る 新しい星
バラの花も 薄桃色に咲く
二度と 枯れない 茨の中の花
天使も翼を 折りたたんで
毎朝 ここに 降りてくる
若者
小川よ 小川よ 心の友
君には分かるね 恋の苦しさ
水に沈めば 憩いがある
小川よ 小川よ 歌い続けてよ
心の小川よ 歌い続けてよ
出典:国際フランツ・シューベルト協会
■ 粉屋と小川(Der Müller und der Bach)/ シューベルト(リスト編)
ピアニストは、ヴァレンティーナ・リシッツァ (Valentina Lisitsa · 1973ー) ウクライナ出身です。
Wikipediaによると、「彼女はウクライナ出身ではあるが、親ロシア・親プーチンの立場をとり、演奏会や録音をキャンセルされるようになった。
2015年4月にはトロント交響楽団の演奏会でラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏する予定だったが、楽団側から出演をキャンセルされた。
また2022年6月にはブダペストでグリーグのピアノ協奏曲をハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団と演奏する予定となっていたが、5月にキャンセルされた。2023年4月に予定されていたヴェネツィア・フェニーチェ劇場での演奏会も2022年12月に中止が決まった。
かつてはアメリカを拠点に世界中で演奏活動を行っていたが、2023年1月時点のインタビューでは、夫と別居してモスクワに住み、ロシア国内で演奏活動をしていると語っている。」
不幸なことに、政治的な圧力により、音楽界も不当な影響を受けています。彼女の祈りに満ちた演奏は世界にとってかけがえのないものです。