知られざる名曲 第87回 ヴァイオリン曲「月」/ 貴志康一
どうしても忘れてはいけない日本の音楽家がいます。
その名は、貴志 康一(きし こういち、1909 - 1937)。吹田市出身の作曲家、指揮者、ヴァイオリニストです。
■ 名家出身、夭折の天才音楽家 貴志康一
祖父は貴志 彌右衛門氏、松花堂弁当の考案者で知られています。祖父はとても信心深く、京都妙心寺・徳雲院を修復して、貴志家の菩提寺としました。
父は東京帝国大学卒業後、教育の振興に熱心で、私立甲南高等女学校の創設に関わり名誉教授をつとめました。また茶道について研究した文化雑誌「徳雲」を発行して、知識人や文化人と親交を深めました。父は商人であり学者でもあり、芸術・文化への理解が深かったことが康一を音楽家に導いたといえます。
母は、琴やヴァイオリンを習う才女でしたが、実家である西尾家は吹田市にあり、代々天皇家に献上米を納めてきた豪農・庄屋の旧家です。
西尾家住宅は、文化的価値が高く評価され、現在は文化遺産として「吹田市文化創造交流館」となり、一般公開されています。
甲南学園 甲南高等学校・中学校 サイトより
このような名家に生まれた貴志康一は、16歳でヴァイオリニストとしてデビュー、ジュネーヴ音楽院に入学しました。
19歳より、ベルリン高等音楽学校で学び、その後、1710年製のストラディヴァリウス(※)を購入しました。
※当時の時価で6万円、現在の貨幣価値に換算すると1~2億円もするストラディヴァリウス。このヴァイオリンは、19世紀初めにはイギリスの国王ジョージ3世が所有していた貴重なものでした。
恵まれた環境で育った康一は、三度の留学を果たし、1932~35年のベルリン滞在時に作曲家・指揮者として活躍し、ドイツテレフンケン社に自作作品19曲を貴志自身の指揮でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音しました。この頃、巨匠フルトヴェングラーとも親交があったことは良く知られています。
1935年に帰国した後は、新交響楽団(現NHK交響楽団)で、日本初の暗譜指揮による「第九」演奏を行うなど指揮者として活躍するものの、1年後に虫垂炎をこじらせ、1937年、腹膜炎の為、28歳の若さで亡くなりました。
没後も、湯川秀樹のノーベル物理学賞受賞の後の晩餐会の時に、貴志康一の楽曲「竹取物語」が使われたと言われています。
■ 第87回 ヴァイオリン曲「月」/ 貴志康一
Koichi Kishi - Six Compositions for Violin and Piano - 1. "Tsuki" (Moon) (1933)
演奏は、小栗まち絵(ヴァイオリン)さん、戎洋子(ピアノ)さん。
この曲を聴くと、貴志康一がいかに才能豊かで並外れた音楽家であったかが分かると思います。
この機会に、是非↓もお聴き下さい。
月:貴志康一 マンドリン演奏(嶋直樹編)
小松/都響:貴志康一:交響曲「仏陀」
■ 資料参照
Wikipedia、大阪市都島区ホームページ
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