知られざる名曲 第75回 鴎(かもめ)/木下牧子
クラシックの重要なジャンルに歌曲があります。
ドイツ歌曲(ドイツリート)、イタリア歌曲、フランス歌曲。
シューベルトの「冬の旅」など、西洋の歌曲には日本で親しまれている名曲がたくさんあります。
しかし、日本歌曲にスポットが当たることは少なく、隠れた名曲が多く存在します。特に日本の歌曲は心を揺さぶるような「詩」が素晴らしいと思います。
今回は、前回の 「くちなし(髙田三郎)」 に続き、「鴎(かもめ)」を取り上げます(木下牧子 曲/三好達治 詩)。
先ずはお聴き下さい。テノール独唱は、シルバー世代に人気のコーラスグループ「フォレスタ」の中心メンバーの一人 榛葉樹人(しんば しげと)さんです。誠実な歌唱が魅力です。
画像 ACワークス(株)
■ 第75回 「鴎(かもめ)」/木下牧子(1956 - )曲、三好達治 (1900-1964)詩
「鴎(かもめ)」
ついに自由は彼らのものだ
彼ら空で恋をして
雲を彼らの臥所とする
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
太陽を東の壁にかけ
海が夜明けの食堂だ
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
太陽を西の窓にかけ
海が日暮れの舞踏室だ
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
彼ら自身が彼らの故郷
彼ら自身が彼らの墳墓
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
一つの星をすみかとし
一つの言葉でことたりる
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
朝やけを朝の歌とし
夕やけを夕べの歌とす
ついに自由は彼らのものだ
三好達治 著 詩集「砂の砦」より
戦後生まれなのに、夏になると終戦記念日を思い出します。
暗い悲しい太平洋戦争末期、兵力不足からついに学生まで徴兵され、戦地に赴きました(学徒出陣)。
詩人の三好達治は、終戦後の昭和21年、戦死した学生たちをカモメにたとえ、彼らの魂が解放され自由に大空を飛び回っている様子を表し、深い鎮魂の意味を込めてこの詩を作ったと言われています。
作曲の木下牧子も何度も繰り返される「ついに自由は彼らのものだ」のフレーズに、強い祈りを感じると述べています。
しかし、失われた尊い命は帰ってきません。
靖国で英霊として祀られても、
カモメになって自由を得たと言われても、空しく聞こえるだけで悲しみは増すばかりです。
愛する者を失った悲しみは到底癒されるものではありません。戦争は大きな過ちです。
この歌曲は不朽の名作と言えますが、詩を深く味わうほど、私は複雑な気持ちになるのです。
※ご参考①
当ブログ記事 鴎(かもめ)
※ご参考②
当ブログ記事 小雪に思う「海に出て木枯らし帰るところなし」山口誓子
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