2021年、ノーミートは人類の救世主となるか
世界最大のバーガーチェーン 「マクドナルド」は、2021年からノーミート(代替肉)によるハンバーガーを発売すると発表し、今後、100%植物原料のメニュー「マックプラント(McPlant)」を展開するとしました。
すでに 日本生まれのバーガーチェーン 「モスバーガー」は、2020年5月より、野菜と穀物だけで作られた代替肉バーガー「グリーンバーガー(MOS PLANT-BASED GREEN BURGER)」を発売。
同じく日本のバーガーキングが、2020年12月から100%植物性パテのバーガー「プラントベースドワッパー」を販売開始しています。
マクドナルドの参入で「ノーミート」の市場が一気に広がると思われます。
画像出典 https://satominoda.com/mcplant/
「ノーミート」の市場が広がる背景には何があるのでしょう。
■ 人類の食料は枯渇寸前
国連食糧農業機関(FAO)は、魚などの水産資源はすでに90%が枯渇していると発表しました。これは長年の乱獲と海水の汚染、気候変動によるものです。
日本でも、昨年(2020)サンマが不漁によって高騰し、一尾6千円を付けてニュースになったことは記憶に新しいところです。
また、アメリカの科学雑誌『サイエンス』に発表された論文では、このままの規模で魚の乱獲と水質汚染が進んだ場合、2048年には食用可能な魚介類のほとんどが絶滅してしまうと警告しています。
このような事態は、もちろん魚だけではありません。
農産物から乳製品、家畜などの食用肉に至るまですべての食料に及ぶのです。
日本のテレビ番組では、相変わらず「大食い競争」をやっていますが、本当にノー天気(能天気)と言わねばなりません。
もちろんタレントさんは悪くありませんし、まさか大食い競争で食料が枯渇することはありませんが、実はそんな場合ではないのです。
食料が枯渇する原因は色々ありますが、最大の原因は、この100年、世界の人口が急激に増加したことによります。
■ 地球の人口爆発が飢餓を招く
国連の推定では19世紀末に16億人だった世界の人口は、1998年には60億人にまで急増、現在(2020年)は77億9500万人となっています。わずか100年余りで約5倍、60憶人も増えたことになります。
人口が5倍になったら、農作物や海産物、食肉などの生産量を増やして5倍にすればよいだけのことですが、もう資源が限界に近づいているのです。大地も水も大気も急激な人口増加について行けません。
ある研究者は、一日に3回食べるのを止めて1回にすれば良いと言い出しました。それほど事態は深刻なのです。近い将来、腹いっぱい食べれない時代がやってくるかも知れないのです。(すでに世界の飢餓人口は8億2100万人に達しています。ユニセフ2018年発表)
国連が発表した世界の食料安全保障と栄養の現状に関する最新の年次報告書は、2014年以降、世界の飢餓人口の増加が続き、過去5年間で、数千万人が慢性的な栄養不良になり、世界中の人々がさまざまな形態の栄養不良に苦しんでいます。2020年7月13日 (ローマ発)
地球上の食料が不足する中、さまざまな代替食品の研究開発が始まり、すでに一部が市場に出回るようになりました。
ただ、日本では代替食品の仲間である「コピー食品」が従来から発売されており、認識にズレが生じています。
本物に似せて作られた食品を、「コピー食品」と言いますが、このレポートのテーマである「代替食品」との違いを少し整理しておきましょう。
■ コピー食品と代替食品の違い
正月の人気番組に「芸能人格付チェック」というのがあります。例えば、本物の「タラバガニ」と、「カニかまぼこ」を食べさせて、どちらが本物かを当てるゲームですが、これが意外と当たらないから不思議です。もしかすると私たちは、コピー食品を口にしていても気づかずにいるかも知れません。ご存じカップヌードルの小さな肉片も、人工肉(大豆由来)の一種です。
カニかまぼこ写真 Wikipediaより
世の中にはコピー食品があふれています。鰻(うなぎ)もどき、カニもどき、イクラもどき、こんにゃくレバーなどはスーパーでも売られているコピー食品です。
尚、「コピー食品」も「代替食品」も同じ人工食品ですが、コピー食品は食糧難に対応して作られたものばかりではありません。高級食材より安価にしたり、その食品そっくりに作った遊び心のある食品もあり、別名「フェイク食品」とも言います。
一方、「代替食品」は、菜食主義者やアレルギー体質への配慮※、健康リスクの排除、環境への配慮、資源の確保、家畜の伝染病対策、さらに前述の「急激な人口増加」への対応が考えられ、食糧難への解決策として注目されているのです。
※その意味で、近年需要の高まっている「豆乳」や「米粉パン」なども代替食品の一部です。
以上、人類はかつてないほどの食料危機に直面していること。その原因は地球の人口増加にあること。そして多くのコピー食品、代替食品が出回っていることがお分かりいただけたと思います。
それではもう一度「代替肉」に話を戻します。
■ 代替肉のメリットは多い
①環境問題の改善
・牛を育てる牧場を確保するために森林を伐採する必要がなくなる。
・牛1頭が年間に消費する水4万1700リットルが節約できる=水資源の確保。
・牛が排出する大量のメタンガス(温室効果ガス)がなくなる。
牛は、CO2の28倍ものメタンガスを大量に排出しており、現在地球から排出されている温室効果ガスの15%はこの家畜産業が原因だとされています。
畜産業がこのまま拡大し続けるなら2030年には気温1.5度上昇するのに必要な二酸化炭素の49%を畜産業が排出することになるとも言われています。(DOI 2019.12.11)
また、牛丼1杯には水2000リットル、ハンバーガー1個には水1000リットルが使われています。牛を飼育するには(灌漑用水も含め)大量の水が必要なのです。
国連食糧農業機関(FAO)は、動物を育てて食料にすることは地球温暖化や大気・水質汚染など、世界的な環境問題の原因になっていると指摘しています。
②健康志向に役立つ
・心臓病、糖尿病、がん(特に大腸がん)のリスクが減少する。
・脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)のリスクが減少する。
世界保健機関(WHO)は、動物の肉を発がん性物質に指定していますが、同時に心臓病や糖尿病のリスクを高め、健康に悪影響を与えると指摘しています。
加工肉に関して言えば、120万人を対象とした研究で、日常的に食べることで心疾患リスクが最大42%高まると示され、毎日50gの加工肉を食べると、大腸ガンのリスクが18%上昇するとしています。また、赤肉に関しても、毎日食べることで、4年以内の糖尿病発症リスクが30%上昇するとも示されています。
尚、加工肉や赤肉の発癌作用は、肉を焼いた際に発生する発ガン性物質、PAH(多環芳香族炭化水素)が主に起因すると考えられています。
③動物の犠牲を減らす
・多くの動物たちを殺さなくてもよくなる。
推計では、一年間に肉牛3億440万頭、乳牛2億8000万頭、豚14憶9000万頭、肉用鶏666億羽、採卵用鶏78憶4000羽が殺され、人間の食べものになっています。(2017年度※)
実に地球の人口の10倍以上の動物たちが人間の犠牲になっているのです。
しかもこの推計値は「牛、豚、鶏」のみで、「羊(マトンやラム)」のように日本でもジンギスカン料理として食べられている食肉、さらにジビエ料理にある野生動物「鹿、イノシシ」、エビやカニ、クジラを含む魚介類、七面鳥・カモなどの鳥類、スッポンなどの爬虫類も含んでいません。人間は食べることに余りにも貪欲な生物なのです。
動物の犠牲は、その他にも狂牛病 鳥インフル 豚コレラなどの家畜の伝染病で、日本だけでも毎年のように数万から数百万の数の動物が殺処分になっています。なんの罪もない動物たちが殺されて土に埋められるニュースを見て心を痛める人も多いのではないでしょうか。
動物愛護と倫理上の観点からも、これ以上の動物の犠牲はあってはならないと思います。
④ベジタリアン対策
・ベジタリアン(菜食主義者)にとって、ノーミートは朗報である。
健康、倫理、宗教等の理由から、動物性食品の一部または全部を避ける食生活を行う人を、一般的にベジタリアン(菜食主義者)と呼びます。(wikipedia)
日本でも禅宗の影響で動物性の材料を一切用いない「精進料理」が発達しましたが、世界には宗教上の理由でノーミートを実践している人も多く、ヒンドゥー教とジャイナ教が多いインドでは、実に国民の30~40%がベジタリアンだそうです。(ちなみに日本は4.7%)
※尚、菜食主義者(ベジタリアン)と区別して「完全菜食主義者」の人をビーガン(ヴィーガンvegan)と言いますが、ビーガンは肉や魚のほかに卵・乳製品も食べません。
日本ベジタリアン協会はビーガンを「動物に苦しみを与えることへの嫌悪から動物性のもの(革製品や毛皮も含む)を利用しない人」と定義しています。
米国は430万人のベジタリアンと370万人のビーガンが存在しており、今回のマクドナルドの決定も、その人たちを意識した事業展開と思われます。
━ 有名なベジタリアン(参考) ━
十一代目 市川海老蔵、イルカ、サンプラザ中野くん、錦戸亮 関ジャニ∞、藤子不二雄A、宮沢賢治、横峯さくら、フジ子・ヘミング、財津和夫、志茂田景樹、松井玲奈(SKE48)
トーマス・エジソン、ジェームズ・キャメロン、マイケル・ジャクソン、スティーブ・ジョブズ、ベンジャミン・フランクリン、マドンナ、カール・ルイス、スティーヴィー・ワンダー、アルバート・アインシュタイン、ジョージ・バーナード・ショー 、レフ・トルストイ、アドルフ・ヒトラー、アンソニー・ホプキンス、ポール・マッカートニー
■ 代替肉の安全性問題とデメリットについて
・食品添加物、遺伝子組み換えの問題
食品添加物は、ミートの「風味や香り」を作り出すために不可欠で、業界も使用を認めています。たとえ少量であっても代替肉が日常的に食されるようになれば、食品添加物の摂取量も増えることになり、私たちの健康面への影響が懸念されます。
遺伝子組み換えについても、アメリカの非営利組織「食品安全センター」が、FDA※に対し「インポッシブルフーズ」の代替肉が、遺伝子操作された酵母の試験を受けることなく認可されたことに異議を申し立てています。
※「インポッシブルフーズ」とはGoogle社やビル・ゲイツ氏なども出資している代替肉企業
※FDAとは、Food and Drug Administrationの略。 アメリカ食品医薬品局。日本の厚生労働局にあたる公的機関。
代替肉の安全性は、今後さらに検証が進み明らかになると思いますが、確かに添加物が多いことで自然食品や健康食品とは呼べないものの、本物の肉を超えるほどの健康リスクは見つからないのも事実です。
ただ、もう一つの大きなデメリットは畜産業への影響です。
・畜産・食肉業界への影響
食肉産業、とりわけ畜産農家の人たちは、代替肉によってこれまで携わってきた仕事が失われることになりかねません。家畜産業に携わる人は世界に数億人いるとの推計もあります。
具体的に影響の大きい国は、生産量上位の米国、ブラジル、中国、アルゼンチン、オーストラリア。そして輸出量上位の、ブラジル(208万トン)、オーストラリア(166万トン)、インド(156万トン)です。例えば、牛肉の輸出大国 オーストラリアは生産量の65%を、日本を含む 100カ国以上に輸出しており、代替肉が普及すれば、大きく国益を損なうばかりか貿易問題に発展する恐れもあります。
・地域特産のブランド牛に影響
また日本では、「松阪牛、近江牛、神戸牛」など各地のブランド牛によって地域振興が成り立っており、代替肉の普及次第ではその地域が経済的な打撃を受けることになります。
同時に、ステーキハウスや焼き肉専門店などの経営が圧迫されることも考えられます。
それでは、代替肉にはどんな未来が待ち受けているのでしょうか。
■ 代替肉の未来
コロナウィルス(Covid-19)は畜産システムの脆弱性を露呈しました。アメリカの多くの屠殺場ではクラスターが発生し、食肉処理や加工ができなくなりました。食肉の流通が止まったことで、代替肉の需要が急拡大したとのことです。
もしかすると、代替肉が注目されるきっかけはコロナウイルスだったかも知れませんが、
やはり「環境面」、「健康面」、「倫理面」が代替肉普及の大きな要素だと思います。
すでに、日本を含む世界 250以上の大手企業、非営利団体、研究機関が、クリーンミートや植物性の代替肉の開発、投資、販売を行うようになっていますが、(2019年時点)、世界的な経営コンサルティング会社ATカーニーの分析は、2040年には「肉」市場における代替肉の占める割合は60%になるだろうと予測しています。現在の畜産由来の肉は実に40%にまで低下することになります。
2019年、世界経済フォーラムはダボス会議の前に代替肉についての報告書を出し、肉に替わるタンパク質は食品汚染のリスクが無く、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながる可能性があるとして今後の増加する人口のタンパク質需要を満たすためにはタンパク質システムの変革が必要だろうと言っています。
これは、100億人の食を支えるために必要であるばかりか、人類の健康維持のためにも、地球の環境保全のためにも避けて通れない道かも知れません。
シンクタンクのRethinkXは、レポート「Rethinking Food and Agriculture 2020-2030の中で、牛乳の需要については2035年までに90%減少し、他の畜産物も同様の道をたどると発表しています。
さらに社会科学者のJacy Reese氏は、培養肉※などの代替技術の登場により、すべての畜産は2100年までに終了するとまで予測しています。
※培養肉とは、従来の食肉の代わりとなる「代替肉」のひとつで、動物の細胞を体外で組織培養することによって得られた肉のことです。厳密な衛生管理が可能、食用動物を肥育するのと比べて地球環境への負荷が低いなどの利点がありますが、高価であることが培養肉の課題でもあります。
(日清食品サイトhttps://www.nissin.com/jp/sustainability/feature/cultured-meat/、およびWikipediaより)
■ 日本の現状
ここ数年、日本でも代替肉への取り組みが始まっています。
日清食品、日本ハム、ネクストミーツを始め、丸大食品、伊藤ハム、ヱスビー食品、大塚食品、味の素、ハウス食品、グリコなどの食品メーカーから、総合商社、ベンチャー企業、イビデンなどの他業種からの参入も含め、多くの企業が事業展開を始めています。
日清食品ホールディングスは第21回日経フォーラム「世界経営者会議」で、カップヌードルは「今後全ての素材を植物由来に置き換えていく」とし、エビなど肉以外の動物性食材についても植物性のものに切り替えていくという方針を示しました。
また日本ハムも、植物性の材料を使う「植物肉」市場に参入すると表明しました。
そして2020年1月には、培養肉普及を目的とした企業連合(日清食品ホールディングス、日本ハム、ハウス食品グループ本社などの食品大手、開発研究機関などからなる)が設立されました。
■ 日清食品の挑戦
日清食品では、2017年の8月から東京大学と「培養ステーキ肉」の共同研究を開始。肉厚なステーキ肉を実現するという、前人未到の挑戦をしています。
同社は、「培養ステーキ肉」の基礎技術を2024年度中に確立することを目指しており、肉本来の味や食感を忠実に再現する研究を進めています。これは、ハンバーガーに入れる代替肉とは少し次元が違うようです。
また、「培養肉」の技術は牛肉に限らず、マグロやウナギなど枯渇する資源への適用も可能で、大きな期待が寄せられています。
■ あとがき
以上、調べれば調べるほど「ノーミート」時代の到来を予感させる記事になりました。
今日の世界は、多くの動物を殺して食用にしている一方で、食べ残しを大量に廃棄しています。また、国家間の貧富の差から飢餓に苦しむ人が8億人も存在しているのです。
私たちは、この事実を重く受け止めなくてはなりません。
目前に迫った100億人の食料危機、悪化するばかりの地球環境、健康リスクの増大。
2021年、ノーミートは人類の救世主となるか。
そのことを真剣に考える一年がスタートしました。
令和3年 丑年(うしどし)
(2021年 正月特別記事 壺中日月長)
※ NPOアニマルライツセンター サイトhttps://www.hopeforanimals.org/meat-free-monday/554/
より一部転記しました
※ 日清食品サイト
https://www.nissin.com/jp/sustainability/feature/cultured-meat/
※本文中の写真 「写真AC」フリー写真のダウンロードサイトより
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