自治会再生への道
自治会はどこへ行くのか
地域の自治会長を拝命して5年が経ち、慣れない自治会活動も何とかこなせるようになりました。
そしてこの度、72の自治会の集合体である「自治会連合会」の副会長をお引き受けすることになり、及ばずながらその責任を果たすべく更なる精進を重ねる所存です。
しかし、自治会を取り巻く環境は年を追うごとに悪化しており、この機会に自分の考えを整理する必要に迫られ、ブログの場を借りてレポートすることに致しました。
第1章 崩壊する自治会
■ 世帯数の減少と、深刻な加入率の低下
近年の少子高齢化により、地域の世帯数は減少しています。高齢夫婦だけの世帯や一人暮らしの世帯も多く、空き家も目立つようになりました。また古くからあった個人商店の多くが商売をやめたことにより地域の活力は低下しています。
さらに、当市の自治会への加入率は、この13年で約10%減少して、今や61,3%(平成30年度)になりました。(ちなみに、平成の初めは80%を超えていました)もちろん任意団体である自治会への加入義務はありません。このまま行けば、あと10年で加入世帯が50%を切る深刻な事態になりかねません。
もし、住民の半分しか入っていないような自治会なら、その存在意義は無いに等しいでしょう。
加入者が少なければ、運営するための資金(自治会費)は集まらず、自治会長などの人材を集めることも出来ません。すなわち、資金不足と人手(担い手)不足の両面から、自治会の存続は難しくなると思われます。
世帯数の減少と、加入率の低下がこのまま続けば「自治会の崩壊」は避けられません。
そのカウントダウンはすでに始まっています。
■ 自治会加入のメリットとは
このような危機的状況の中、自治会を存続させるには、加入率を上げるしか手はありません。世帯数を増やすことは今の日本では考えられないからです。
加入率を上げるためには、自治会に加入するメリットを再構築する必要がありますが、これは容易なことではないと思います。各世帯が年間に収める自治会費(町内会費)は8千円から1万2千円(推定)、この額に見合ったメリットはあるのでしょうか。むしろ地域の行事への参加や公園の清掃作業など面倒なことが増えるだけかも知れません。
※自治会費(町内会費)といっても、実際に「自治会連合会」に上納するお金は3割程度(2500円)で、あとは町内の新年総会(お日待ち)などに使われます。
地域とのつながりや災害時の連携をメリットだという人もいますが、個人主義とプライバシー尊重の社会では、あえて隣(となり)近所との付き合いを好まない人もいるのです。また災害時には人命第一の観点から、自治会加入の有無にかかわらず懸命な救助活動が行われます。当然ですが自治会員だけが優先して救助されることはあり得ません。また避難施設や支援物資なども平等に提供されます。
ただ、東日本大震災などの経験から、災害時の初期の避難誘導や安否確認は、自治会組織に入っていたほうがスムースだったと報告されています。その観点から、自治会とは別に自主防災組織や緊急連絡網などを整備する動きは加速しています。自治会加入のメリットが防災以外に見当たらないとすれば、自治会加入の実質的なメリットは残念ながらありません。
■ 加入者の本音
何もメリットがないのに自治会に入っている人は、親の代から引き継いで加入している人が大半です。実際、新しくできたマンションなどの住人は加入しないケースが増えています(入居者が単身世帯ではその傾向はより顕著だと思います)。
そして、古くからの住人は、言わば町内のしがらみ・慣習にしたがって加入しているだけです。それでも子供が小さいうちは子供会や学校行事を通じ自治会に入っていますが、子供が大きくなれば脱会したいのが本音ではないでしょうか。
加入していると、さまざまな当番や役割が回ってきますし、出たくもない行事に参加しなければなりません。自治会費を払った上に、ボランティア(無償奉仕)で仕事を割り当てられたり、地域の行事に駆り出されたりと負担は増えるばかりです。
第2章 自治会の現状と役割
住民から見るとメリットの少ない自治会ですが、行政からすると大変便利な組織といえます。
■ 自治会は行政の下請けか
自治会が行う活動には、行政の要請を受けて行う受託的活動と本来の自主的活動があります。
自治会が行政に代わって行う受託的活動は、月2回の広報誌の戸別配布をはじめ、敬老会、成人式、防災訓練などがあります(当市の場合)。
その他にも、①交通安全(交差点や通学路)、②防犯(見守り隊、防犯灯、青色パトロールなど)、③都市美化(公園清掃など)、④ゴミ出し・分別回収、⑤高齢者のケア、⑥生涯学習、⑦福祉・介護(民生委員・福祉委員)、⑧教育(学校行事との連携)⑨まちづくり、⑩各種団体※との連携(※消防団・水防団・社会福祉協議会・老人会・婦人会・青少年育成・子供会・PTAなど)なども自治会の大切な活動です。
①~⑩の活動を通じ、自治会は行政の補完的役割を担っています。
自治会が独自に行う活動は、年1回の町内総会(お日待ち)と、文化(文化祭・各種講座)、体育振興(市民運動会・スポーツ大会)、地域振興(祭り・盆踊りなどのイベント)、神社祭礼(氏神・秋葉神社)に限られています。
このように、本来なら行政が行うべき公共サービスも自治会なしでは成り立ちません。これが、自治会が行政の下請けだと言われる所以です。(※行政側は自治会を“パートナー”と言っています)
■ 自治会の収支
上記のような自治会が担っている活動に掛かる事業費は全て自治会が負担しています。すなわち、自治会に加入している61,3%の住民の自治会費(町内会費の一部)から捻出されます。さらに自治会では日本赤十字社や社会福祉協議会に対し拠出金を出しています。県に対しても共同募金として一定の金額を納めています。献身的ともいえる自治会の姿が見えてきましたが、これでは収支が合いません。
さすがに行政からは自治会に対し、ある程度の交付金(補助金)が支払われます。前述の広報誌戸別配布手数料や資源分別回収奨励金、防災や美化に関する推進費、さらに成人式、敬老会の運営費などです。
この交付金や補助金で、自治会の収支は何とか赤字を免れています。
ただ、自治会では金銭面の負担だけではなく、これらの業務に関わる人的負担が大きな要素を占めています。もし自治会のような担い手がなければ、業務代行サービスや警備会社など外部に委託しなければならず、莫大な経費が掛かることでしょう。
したがって、自治会の収支は住民の自治会費(町内会費)と行政の交付金で成り立っていますが、「人的貢献」という多くの善意のボランティアがあることを忘れてはなりません。
第3章 自治会の隠れた目的
前述の通り、自治会活動は多くの住民の人的貢献、すなわち奉仕活動で成り立っています。近年は60歳、65歳を過ぎても会社などで働いている人が多く、自治会の活動を支える人は高齢化しています。
自治会長や班長、会計などの役職は、ほとんどが順番制(又はくじ引き)で決められますが、すんなり決まることはまずありません。このような役が回ってくることを嫌って自治会に加入しない人も多いと思います。では、自治会の目的はどこにあるのでしょうか。
実は、サービスを受ける側(住民)から考えると、自治会の存続は難しいのですが、サービスを行う側、すなわち自治会の担い手(自治会役員)から考えると、自治会組織は大いに「生きがい」を感じるステージ(舞台)でもあります。
■ 生きがいの創出
高齢化社会に突入した日本では、現役を引退した人の多くは、仕事という「生きがい」を失い、一時的に当惑することになります。ある人は趣味の世界に入ったり、教養を高めるため講座を受講したりします。ですから巷のカルチャー教室は高齢者であふれています。アウトドアやスポーツ、旅行、サークル活動も盛んですが、地域のボランティア活動に精を出す人も多く存在します。この点に着目すれば、自治会は「生きがい」を創出できる絶好のステージ(舞台)だといえるでしょう。
自治会を存続させる鍵は、現役を引退した優秀な人材をいかに自治会に集めるかに掛かっています。引退後の第二の人生を「自治会」という地域密着型の組織で活かしてもらおうという考え方です。誰もやりたがらない大変な仕事ですが、それだけに住民から感謝され、ある意味「やりがい=生きがい」を感じる意義のある仕事(活動)です。
自治会の、隠れた目的は、担い手の「生きがい」創出にあると考えます。
■ 地域の接着剤
しかし、自治会が一部の担い手(役員)の「生きがい」のためにあるとすれば、自治会費を納めている一般の加入者(住民)はどう思うでしょうか。これは複雑な問題です。一つ間違えば、自治会役員と住民の間に溝が出来てしまいます。また、役員同士でも「やりがい」をめぐって温度差があるとすれば信頼関係は築けません。やりたくて役員を引き受けた人と、仕方なく役員になった人では考え方が180度違います。その溝を埋めない限り自治会の運営はスムースに行かないでしょう。
このような「溝」を埋める手段として、地域のイベントがあります。運動会や夏祭りなどを通して、地域が一体となり住民同士のコミュニケーションが図れます。すべての人に何らかの役割を持ってもらうことにより、連帯感も生まれるでしょう。このような「ご近所」とのつながりが、災害時に大いに役立つことになります。理想は、自治会活動が地域の接着剤になって、住民の「きずな」や住民同士の「助け合い」に結びつくことですが、現状の自治会には「制度疲労」ともいうべき様々な障害があることは前述の通りです。
■ 模索が続く自治会
世帯数の減少、加入率の低下、資金不足、高齢化、担い手の不足、個人主義、年代格差などがある中、行政から膨大な仕事を担わされている「自治会」は、すでに制度そのものが限界にきていると言っても過言ではありません。
自治会のスリム化(行政に任せる)、自治会のIT化(SNSの活用、回覧板の廃止など)、自治会のNPO化(事業の展開、ボランティアから脱却)など自治会再生に向けた模索は続いています。しかし、任意団体である 自治会組織のままでは、抜本的な解決に向けての動きは難しいと思います。
この際、新たな組織として再出発することが最も早い解決策ではないでしょうか。そこで登場したのが、次章の「まちづくり協議会」です。
第5章 「まちづくり協議会」は救世主となるか
人口減少時代に突入した日本では、行政のスリム化は避けて通れない重要課題です。行政主導の自治活動から、自立自助のまちづくりに転換することが政府(総務省)の方針です。今まで行政が行ってきた住民サービスの多くを、その地域の住民が自ら行うように転換すれば、行政の役割は軽減され、担当職員も減らせます。その地域に見合ったきめ細かいまちづくりが可能になるばかりか、行政のスリム化も達成できます。その意味で、総務省は「協働によるまちづくり」を提唱し、条例も整備しています。
当市でも「住民自治基本条例」を平成19年3月に制定し、市民と行政の「協働のまちづくり」を通じた住民主体による、新しい市民社会の構築を目指しています。 これが「まちづくり協議会」です。
まちづくり協議会の構成は、その地域の各種団体、すなわち、自治会、福祉関係、防災、防犯、交通安全、学校、PTA、公民館、女性団体、スポーツ団体、子供会、赤十字、老人会、イベント実行委員会、商店街、ボランティア団体など多種多様です。
これらの団体を横断的に取りまとめ、地域の問題解決と住み易い環境づくりを話し合う場が「まちづくり協議会」です。それぞれの団体が有機的にネットワークを築き、情報を共有し、参画意識を持って活動・運営する会が「まちづくり協議会」です。自治会より活動範囲が広く、団体同士が協力・協調し合い、高い理念を持って運営に当たる組織が「まちづくり協議会」です。
まちづくり協議会は全国的に広がりつつあり各地で発足していますが、まだ軌道に乗っているところは少ないと思われます。それは、自治会との関係が曖昧で、活動の分担や境界線がハッキリしないことによります。「自治会」の名称が「まちづくり協議会」に代わっただけだと言う人もいるほどですが、実際に「何をどうやるのか」手探りの運営が続いています。
しかし、従来型の自治会が行き詰まり、崩壊寸前の自治会の現状を見ると、大きな変革がどうしても必要です。たとえ手探りでも一歩を踏み出す勇気も必要です。
自治会再生への道は前途に広がっていますが、それは自治会自体を見直すとともに、「まちづくり協議会」の主要な構成団体として生まれ変わる道です。紆余曲折はあっても英知を結集すれば必ず道は開けると思います。
以上、長文にお付き合いくださりありがとうございました。(この記事は、今後、加筆修正することがございます。)
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