模索するクラシック音楽シーン(40万PV記念)
クラシック音楽の世界はどこへ行くのでしょう。
当ブログでも指摘しているように、現代音楽は、残念ながら聴衆に受け入れがたい音楽として存在しています。
理屈抜きに、その音楽が「心地よくない」からです。実際、コンサートで現代音楽がプログラミングされることは稀で、あったとしても客足が伸びないのが現状です。
現代音楽の失敗で、クラシックコンサートは、200年(※)も前の古典、ロマン派の作品を聴くことが中心になりました。 ※正確には約100年~300年
コンサートホールでは、今日もバッハ、ベートーヴェン、モーツァルト、ショパン、ブラームス、チャイコフスキーなどの大昔の作品が繰り返し演奏されているのです。
そのコンサートの数は異常で、大都市圏を除けば、完全に供給過剰です。
当然、コンサート主催者や演奏家は、集客を第一に考え、今までにない新しい発想のコンサートや、話題性のあるコンサートを企画します。
クラシックコンサートの需要を新たに喚起するには、新しい切り口が必要だからです。クラシック音楽を模索する流れの数々に独自にスポットを当ててみました。
先ず、最初の流れが、「復古的演奏スタイル」でした。
■ 復古的演奏スタイル
作曲当時の編成(規模)、当時の楽器(オリジナル楽器)、当時の奏法・ピッチ、原典版の楽譜を使い、できるだけ当時の音楽を忠実に再現しようとする演奏手法です。
研究は古くからありますが、1970年代に登場した、アカデミー室内管弦楽団(Academy
of St. Martin-in-the-Fields ネヴィル・マリナー創設)は、古楽奏法を取り入れた新解釈が大きな話題となりました。(ヴィヴァルディの「四季」は衝撃的でした)
その後、ブリュッヘンの18世紀オーケストラなど、オリジナル楽器によるオーケストラが続々と誕生しました。そしてバロックのみならずベートーヴェンなどの古典派作品も復古演奏されるようになったのです。
しかし、そのような新しい試みも五十年も経つと定着し、今では当たり前になってしまいました。そこで最近登場したのが、クラシック界の革命児テオドール・クルレンツィスです。
■ 現代感覚的演奏スタイル ~従来のクラシック音楽はつまらない~
伝統や芸術性を重んじる今日のクラシックコンサートの中にあって、クルレンツィスは、圧倒的に欠落してしていた「現代感覚」という新風を演奏に活かすことに着目しました。
本来は現代音楽(作曲)が担うはずの現代に生きるクラシック音楽を、彼は演奏で表現することに成功したのです。
現代社会にマッチしたスピード感、生命力、創造力をフル動員した新感覚の音楽。
クラシック音楽が低迷する中、この新しい試みは世界中で多くの音楽ファンの共感を呼ぶこととなり、この度(2019年)初来日も実現しました。
既成概念にとらわれない新感覚の演奏スタイルは、今後広がりを見せると思います。第2第3のクルレンツィスが現れることが、クラシック界の活性化につながることは間違いありません。
1.伝統的でアカデミックな演奏スタイル
2.復古的演奏スタイル
3.新感覚の現代的演奏スタイル
今後の大きな流れを上記の三つとするならば、その支流もまた何本もあり、クラシック音楽シーンの在り方を模索しています。
次に、無限の可能性を秘めたその支流のいくつかを考察します。
■ 人工知能(A I )、人工生命(アンドロイド)の芸術分野参入
昨秋、人工知能(A I)が描いた肖像画が、4千9百万円で落札されました。そして、A I が作詞作曲する時代です。芸術分野にまで進出したA I に、いずれ芸術家は職を奪われるかも知れません。
そんな中、人工生命を搭載したアンドロイド(オルタ3)がオーケストラを指揮しました。(2019・2・28)
出典https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1172248.html
オルタ3は、人工知能とは違い、自律的に行動します。人とアンドロイドによる新たなエンタテインメントの可能性が広がります。最新のテクノロジーがクラシック界の起爆剤になるのでしょうか。
■ 全く新しい発想とは
デア・リング東京オーケストラの挑戦!
このオーケストラはかつてない独創的な配置が特徴で、メンバー全員が客席(聴衆)の方を向いて座っています(写真)。
通常のオーケストラの配置は、指揮者を囲むように半楕円形に並んでいます。
出典https://finenf.jimdo.com/n-fオフィシャルサイト/
この革新的な配置は、ひとえに演奏の響きを重視するために考えられたといいます。いい響きを生み出すために、長年にわたり試行錯誤を繰り返してきた結果だそうです。
指揮をする西脇義訓氏は、「指揮者を見てそのタクトに合わせてみんなと同じ演奏をするのではなく、自分の音がホールにどのように響いていくかを注意深く聴くことが重要なんです。」と語っています。
そして、ホールをひとつの楽器としてとらえ、ホール全体に音楽が響いていく空間力を意識することが重要だと説きます。
デア・リング東京オーケストラの挑戦を、期待を込めて見守りたいと思います。
◆ 参加型クラシックの拡大
36年も続いている「1万人の第九」をはじめ、参加型のコンサートはクラシック普及の大きな原動力になっています。
定年後始めたアマチュア合唱団のメンバーが、プロのオーケストラをバックにクラシックの大曲に挑む姿は歓迎すべきことです。
また最近では、公共施設やショッピングセンターで「第九」などのクラシック曲を演奏する「フラッシュモブ」が日本でも見られるようになりました。その場に居合わせた人々も自然に音楽を楽しんでもらおうという試みです。https://www.youtube.com/watch?v=kocZG5erhTE
一方、お客さんに演奏以外で参加してもらうクラシックコンサートも増えています。お客の作った「詩」や「写真」とコラボしたコンサートです。(宗次ホール)
さまざまな形で参加し、クラシック音楽を能動的に楽しむ人が増えることは成熟した文化の表われです。
◆ 大型化するクラシックのライブ演奏
言うまでもなく、クラシックコンサートは音楽(多目的)ホールで行う生(ライブ)演奏を指します。
しかし、近年日本でもコンサートホールの枠にはまらない大規模ライブ、野外コンサート、音楽祭が増えています。
ピアノ界の貴公子「清塚信也」の初の武道館ライブが8月(2019)に行われますが、1万人規模の観客動員が実現すれば、クラシックの新しいページが開かれることになるでしょう。
もちろん、従来からあるオペラの野外公演、各地で開催されている「○○音楽祭」なども含め、日本のクラシック音楽シーンが西洋化していることは悪いことではありません。
さらに、ご存じ「ラフォルジュルネ」は、一時は日本4都市で開催され、多くのクラシックファンの獲得に成功しました。
参加型クラシック、大型化するクラシックは、広く市民に受け入れられつつありますが、ややクラシックの専門性が薄れ、イベントやパフォーマンスの一面が強調されることはやむを得ないかも知れません。
◆ 映画とクラシックの融合
映画館で上映(デジタル配信)される臨場感あふれるオペラの「METライブビューイング」は、今や世界70か国2200館に広がっています。
他にも、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの「シネマシーズン」など、映画館で本場のクラシックを破格の値段で堪能できるとあって、日本でも固定客が増えています。
一方、コンサートホールで生のオーケストラと大型スクリーンを使った「シネマコンサート」が人気を呼んでいます。迫力のオーケストラ演奏をバックに映画を鑑賞するという究極の贅沢が本物志向のお客に支持されています。
映画館で上映されるライブ感覚のオペラやバレエ。 コンサートホールで上映されるオーケストラ演奏付きの映画。まさに映画とクラシック音楽の融合が進んでいます。
◆ その他
・電子楽譜(タブレット)による次世代型オーケストラコンサート
・家庭やオフィスへ演奏家が訪問する「出前コンサート」
・硬派弦楽アンサンブル「石田組」などの個性派の台頭
・「クラシック遊ぶ音楽実験室」をテーマに活動するスギテツ(デュオ)の登場
・ショパン全212曲を18時間連続で演奏(ピアニスト横山幸雄)ギネス世界記録
・プロジェクションマッピングによるクラシック音楽の演出
・ビジュアル系・アイドル系クラシック奏者の活躍
・クラシックを題材にした小説(蜜蜂と遠雷)、コミック(のだめ)などの映画化
・定額制でコンサート行き放題の登場
など、クラシック音楽の切り口は無数にあります。
■ 模索するクラシック音楽シーン
上記も含め、様々な取り組みが今後のクラシック音楽シーンを塗り替えていくことになると思います。ご紹介した事例はごく一部に過ぎません。
新しい発想や着眼、独創性、個性・差別化、市民参加、融合・コラボ、ビジュアル、テクノロジーがキーワードです。クラシック音楽は多様化して、時代のライフスタイルに合ったそれぞれの道を歩むことになるでしょう。
クラシック音楽シーンの模索はまだまだ続きます。
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