参議院が調べた日本のオーケストラの課題と役割
赤字どうする? 日本のオーケストラ、「第九」 以外目玉ナシ。
と言う ”PRESIDENT Online ”(2017・2・6付) の記事の見出しにショックを受けましたが、これはある意味 「本当」 です。オーケストラの苦しい台所事情に迫った今回のレポートは一読に値すると思います。
この度、参議院第二調査室が発表したレポート 「日本のオーケストラの課題と社会的役割~東京におけるプロ・オーケストラの状況を中心に~」 は、主にオーケストラの経営基盤に焦点を当てて、その実情と役割を調べたものです。(公益社団法人日本オーケストラ連盟平成26年時資料等参照)
以下にその一部を紹介します。(PRESIDENT Online 参照)。
日本では現在、33のプロ・オーケストラが活動していて、年間に約3800回の演奏会が行われ、約425万人が来場しているが、その経営基盤は脆弱で、国や地方からの公費助成なしには活動が困難な状況にある。
14年度のプロ・オーケストラの公演に要する人件費や事業活動に関する支出は約263億8900万円。
一方、収入は約270億円あるものの、演奏収入は約142億2700万円しかなく、大幅な赤字状態だ。これを補っているのは、国・地方自治体の支援66億1100万円、民間支援53億6800万円などだ。 (以下グラフ)
日本のプロ・オーケストラの経営形態を大別すると、
(1) 特定団体による支援を受けている楽団 (NHK交響楽団、読売日本交響楽団など)
(2) 自主運営型の楽団 (東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団等など、多くのプロ・オーケストラがこれに当たる。) 収入は、演奏収入が大半で、残りは民間からの寄附等というところが多く、定期会員を中心としたチケット収入のため、経営基盤が脆弱だ。
(3) 地方自治体の支援を受けている楽団 (札幌交響楽団、群馬交響楽団などで地方自治体から補助金を受けているケースが多い。)
(4) 地方自治体の文化振興財団等が運営 (比較的に新しい形態で、石川県音楽文化振興事業団が石川県立音楽堂と共に運営を行っているオーケストラ・アンサンブル金沢、兵庫芸術文化センター管弦楽団、京都市交響楽団などがある。)
――の4つに分類することができる。
プロ・オーケストラがベースとしている都市を見ると、人口と同様に東京都には9つ、大阪府には4つ、愛知県には2つと大都市に集中しているのがわかる。
三大都市圏に集中するのは、聴衆の確保がし易く、資金も調達でき、良いホールと音大等の音楽家養成機関があることが考えられる。
中でも東京都は人口約145万人につき1つのプロ・オーケストラが存在し、海外のオーケストラ公演やアマチュアオーケストラ等も加えると、巨大な音楽資源が集積し、世界有数の音楽市場となっている。
特に年末の風物詩「第九」の公演数は多く、世界的にも特異な現象と言えるが、回数が多ければ質の低下を招きかねない反面、クラシック音楽の入り口としての役割は果たしている。新たな聴衆が増えなければ、聴衆は高齢化してオーケストラの存続は困難になるだろう。
振り返れば、明治から昭和戦前期における日本の音楽教育の特異な発展の中で、国は洋楽を演奏するオーケストラに関与することはなかった。
民間主導で進んだ日本のオーケストラ運動は、戦後の放送局の発展や地方文化の発達、自主運営型オーケストラの誕生によって拡大した反面、放送局からの資金援助が打ち切られ困窮する事態も起きた。
しかし、オーケストラの量的拡大、質の向上、行政や企業の支援もあって日本のオーケストラ運動は文化活動としても発展してきた。
ただ、依然として構造的な財政面の課題は解決されず、公的支援なしでは活動できない。
どうやら、日本のプロ・オーケストラの経営基盤が脆弱なのは、欧米のオーケストラが地域社会と深く結び付き、都市のシンボル的な存在になっているのに対して、日本の場合には地域社会との結び付きが弱いのも、ひとつの要因のようだ。
言われてみれば、日本人の多くがクラシック音楽に親しむのは、年末の風物詩ともなったベートーヴェンの「第九」公演ぐらいしか思いつかない。
しかし、近年ではオーケストラが地方自治体とフランチャイズ契約を結ぶなど連携することで、その地域のホールで定期演奏会を行うケースが増加してきている。
こうした形で、プロ・オーケストラが地域に馴染み、地域文化の一翼を担うようになっていくことは、非常に望ましいことだ。
プロ・オーケストラの存在は、文化水準を計る尺度のひとつでもある。そのためにも、プロ・オーケストラの経営が安定し素晴らしい演奏が行えるような環境作りは重要な問題だろう。
※詳しくは 参議院 当該レポート PDF
当ブログでも再三取り上げてきましたが、クラシック音楽は世界的に衰退傾向にありますが、社会の多様化と高齢化によってその深刻さは増しています。
特にオーケストラのような大所帯の組織は公的支援なしでは運営が難しい状況です。そして、東京のような大都市圏は集客できますが、地方は集客が苦しいのが現状です。
それでも年間 3800回もの公演が行われ、425万人がコンサート会場に足を運んでいます。 425万は、人口の3,3%ですが、実際には同じ人が何度もカウントされていますから、多分1%もいないと思います。
単純に考えれば 「供給過剰」 と言われても仕方ありませんし、1%のために税金を使うわけにはいかない、と言う意見もあるでしょう。
しかし、街中に音楽があふれ、人々が音楽を楽しむ豊かな社会の実現は、私たちの希望であり夢でもあります。
音楽によって犯罪が減り、生きがいが創出され、病気も減って、平和で健全な国家が形成されれば、そんな素晴らしいことはありません。
社会保障費も大事ですが、文化への投資は日本の将来を明るくするものです。音楽に限らず、芸術全般や文化全般に公的支援と、民間支援・寄付などを今まで以上に拡充させることが切に望まれます。
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