語りかけるバッハの世界
フランスのピアニスト アレクサンドル・タローのピアノリサイタルに出掛けました。
斬新で洗練された解釈と スタイリッシュな容貌で、ヨーロッパはもちろん、近年日本でも人気のピアニストです。 すでに3月2日の東京公演(plays “Goldberg Variationen”)のチケットは売り切れています。
その アレクサンドル・タロー氏が弾く バッハの「ゴルドベルク変奏曲」 とあっては、何があっても行かなければなりません。
2016/2/27 NBKコンサートホール (鍋屋バイテック会社関工園内)
母親がパリオペラ座のバレエダンサー、父親がバリトン歌手という恵まれた環境に生まれたタロー氏は、40代後半とは思えない若々しくシャープな印象のピアニストです。
自宅にピアノがないピアニストとして有名ですが、その理由は、ピアノに向き合う時間を大切にしたいからだそうです。日常生活と切り離した環境でピアノに向き合うことで、より密度の濃い練習が可能になるとのことです。
彼の研ぎ澄まされたクリアな音色は、そんな理念を反映しているかも知れません。
滅多に聴く機会のない 「ゴルドベルク変奏曲」 全曲演奏会、もちろん全曲聴くことに意義があります。 ただ75分間、休みなく演奏するピアニストの集中力は聴衆にも伝わり、満場のホール内には張り詰めた空気が感じられました。
タロー氏の演奏は、その空気に溶け込むかのように私たちに語りかけます。
慰めに満ちたアリアは優しく語られ、変奏曲は雄弁に語られます。 時として決然と、時として悠然と、また明快で生き生きとした表情を見せたかと思えば、もの悲しく・・・
そのたぐいまれな表情の変化に、人生の光と影を感じながら、全曲演奏会は私たちの心に大きな余韻を残して終わりました。
タロー氏が語ったバッハの世界に、私たちの人生までもが共鳴した一夜となりました。 いつもながら、主催関係者の皆様に感謝申し上げます。
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