クラシック音楽衰退の原因と対策(4万回 PV記念)
■ 原因その1 現代音楽の失敗 失われた100年
調性の制約を排し、中心音を持たない「無調音楽」を草案し「12音技法」に進化させた 現代音楽の旗手シェーンベルクこそが、クラシック音楽を衰退させた張本人ではないかと考えます。
弟子のウェーベルンもベルクも、影響を受けたジョンケージも同罪でしょう。また現代音楽を芸術と称した評論家や知識人も結果として同罪と言えます。
当初「無調音楽」は20世紀の前衛音楽として認められ「これこそが芸術」などと、もてはやされました。現代音楽の登場で、それまで脈々と受け継がれてきた伝統的なクラシック音楽は絶滅の危機に瀕しました。
しかし、メロディもハーモニーもリズムも否定され、騒音化した現代音楽は、聴衆から次第に見放されるようになりました。そして時が経つと、現代音楽が演奏会で取り上げられることはほとんど無くなりました。
今日の演奏会は、モーツァルトやベートーヴェンからロマン派に至る100年から200年、それ以前の音楽を繰り返し演奏しているだけになりました。
もはや音楽を聴くと言うより、演奏の違いを聴くのがクラシックコンサートの聴き方になってしまったのです。
それもこれも現代音楽に魅力的な曲が無いからです。まさに現代音楽作曲家の技法の間違いであり、その後の怠慢であり、その責任は重大と言わねばなりません。
言ってみれば、今日のクラシックコンサートは、懐メロばかりで成り立っているのです。現代音楽の失敗が、今日のクラシック音楽衰退の最大の原因だと断言して良いと思います。
★ 対策
1.現代音楽は21世紀初頭までで終息させ、その後からは「親ロマン派」(一例)として新しい調性音楽のジャンルを創設する。
2.新たに5分程度の短時間に収まるクラシック作品の形態を普及させる。
3.国内外の作曲コンクールは、すべて「調性音楽」で作曲するよう改正する。
現代音楽の方向性が無調などの前衛音楽に走ったのは、余りにも過去の作品が偉大で、モーツァルトやベートーヴェンを超えられないからだとする意見がありますが、そうではありません。別に超える必要もありませんし、これからも立派な作品は数多く生まれるはずです。
実際に、20世紀に作られた作品の中にも19世紀の伝統を受け継いだものは名曲として演奏されています。(シベリウス、ホルスト、エルガーなど)これらを「親ロマン派」と呼んでも良いと思います。
また、5分で完結するクラシック曲は、例えばNHK大河ドラマのテーマ曲などに見られますが、忙しい現代人のクラシック入門には最適です。さらに、そうした小品を並べたコンサートがあっても良いでしょう。
5分間クラシックの普及は、21世紀のクラシック音楽普及の切り札になると思います。そして、権威のある作曲コンクールは、「調性音楽」で作るよう参加要項を改訂します。
♪参考曲 ペトリス・ヴァスクス(1946~ ) 天にましますわれらの父よ
https://www.youtube.com/watch?v=lsJ3lFo6v40 戦後生まれの作曲家でも、こんなに美しい音楽を書くのです。
■ 原因その2 社会構造の変化
長引く不況の中で、各自治体は財政難から文化予算を削減してきました。福祉や教育、医療に比べれば、文化は後回しになっても仕方がないと言う訳です。また、多くの民間企業では収益が悪化し、文化事業に寄付をする余裕がなくなりました。
世間では格差社会が進行中です。ニートや非正規雇用者が減少しない中、高齢化が急速に進み、年金収入だけで生活する高齢者も増加しています。ですから、一部の富裕層を除き、行政も若者も年寄りもお金に余裕がないのが現実と言えるのです。
そのような社会環境下で、音楽事業者の経営も厳しいものがありますが、お客から見ても高額な入場料は大きな負担となっています。
特に若い世代は、生活も趣味も多様化する中で、ネットやスマホなどの費用負担が大きいうえに、音楽配信の利用者も増え、生演奏のクラシックコンサートに高いチケット代を払う必然性は薄れています。
また、世界のグローバル化に伴い24時間、秒単位で目まぐるしく変化する現代社会では、落ち着いてクラシック音楽を聴く「心のゆとり」がなくなっているのも事実です。
これらの急激な社会構造の変化が、クラシック衰退の第二の原因ではないでしょうか。
★ 対策
1.国の文化予算を増やす。文化の振興に年間350億円は少ない。
2.クラシック普及専門の国立のオーケストラを作り、全国に良質な音楽を提供する。
3.すでに手遅れだが、若者のクラシック離れの対策を講じる。
4.シルバー層に対応したコンサートの在り方を検討し実行する。
日本の文化予算は総予算96兆円の 0.11%で、諸外国と比べても文化国家とは言えません。一般家庭なら30万円の給料をもらっても、330円しか文化にお金を使わないということです。
国の援助が期待できないのなら、音楽界の自助努力も必要ですが、(二重取りしている)政党助成金に320億円もの大金を使うなら、その分を回していただきたいと思います。
また、オスプレイ1機分の120億円で、念願だった国立のオーケストラ(ちなみにNHK交響楽団の年間予算は31億円)を創設して、クラシック普及のため地方を中心に安価で良質なコンサートを提供できる体制を作ります。(準国立のN響はいままで通り東京中心で活動すれば良いでしょう。)
若者のクラシック離れは完全に手遅れですが、今後、学校教育のカリキュラムを改善する(後述)などの有効な対策を講じれば歯止めが掛かるでしょう。
最近、広がりつつある「プロジェクションマッピング」と、コンサートとの融合は、今後の展開次第では、広範な世代にクラシックを普及させるのに一役買うことが期待できます。
また、高齢化しているクラシックファンに対し最大限配慮することで、シルバー 層の取り込みを図ります。シルバー社会のコンサート(ホール)の在り方
■ 原因その3 テレビに占拠された思考 ブームに左右される人々
クラシック音楽は、一部の病的なマニアを除けば、若い頃からずっと聴いてきた高齢者のファンと、テレビなどのメディアに影響を受けた一時的な音楽ファンで成り立っています。もちろん、吹奏楽や学生オケでクラシック曲に親しんできた人、楽器や声楽を習っている人もコンサートに出掛けますが、ごく少数だと思います。
最近のクラシックコンサートを見て感じるのは、テレビの影響力が絶大であると言うことです。
「現代のベートーヴェン」佐村河内氏の作ったとされた交響曲は、テレビのドキュメンタリー番組がきっかけでCD18万枚、全国コンサートツアーという大ブームを作りました。 また、盲目のピアニスト 辻井伸行氏についても、彼が11歳の時からテレビ朝日が取材を続けていました。フジコ・ヘミング氏も、NHKの番組がきっかけで大きな反響を呼び、その後、CD「奇跡のカンパネラ」は30万枚のセールスを記録しました。記憶に新しい「のだめカンタービレ」もテレビドラマがブームに火を付けたのです。
考えてみれば、私たちはテレビ出現以来、テレビの中のスターを追い掛け、テレビの話題に夢中になり、テレビ絶対主義ともいうべき「テレビ信仰」に陥っているような気がします。
テレビの情報に洗脳され、テレビに思考が占拠されたことで、話題性を追い掛けるだけの一時的なクラシックファンが大量に作られました。もちろん、そのこと自体は悪いことではありません。問題なのは、そのブームの陰に隠れてしまう音楽家もいるという事実です。
実力があっても話題性に乏しい音楽家に、スポットライトが当たることはありません。テレビがスターを誕生させた裏側で埋もれていく音楽家も多いのではないでしょうか。
一方、話題性が優先するだけの音楽界(ファン)の基盤は常に不安定で、ブームに左右されるクラシックの将来も不安定です。聴く耳を持ったファンが少ないことは、クラシックの将来を危ういものにしているのです。
クラシック衰退の第三の原因は、ブームを演出したテレビ局と、ブームに左右されたファンの存在です。
★ 対策
1.テレビ絶対主義からの脱却。
2.一流の演奏家のコンサートを多く聴く。
今日のテレビ社会に於いて、テレビの影響から逃れることは困難です。出来るだけテレビを見ないようにするか、テレビの情報を鵜呑みにしないで疑ってかかることです。新聞やネットからも情報を集め、多面的に判断して下さい。
そして、お金と労力を惜しまず、一流のクラシックコンサートに足を運んで下さい。いつか自分なりに「本物」と「そうで無い物」の区別がつくようになると思います。耳の肥えた聴衆が増えることで、演奏家も成長できるのです。実は、クラシックを衰退させないカギは私たち聴く側が握っているのです。
■ 原因その4 文科省の過ち 中学に於ける鑑賞時間の減少
最も多感な中学生に取って、クラシック音楽の鑑賞時間ほど大切なものはありません。現在の年配のクラシックファンは、中学時代の鑑賞時間にレコードを聴いて、クラシックに興味を持った人が多くいます。
ところが、文科省は学習指導要領の改正によって、音楽の授業時数を大幅に縮小させました。もちろん、週5日制の導入や、外国語の強化などが背景にありましたが、年間70時数(1時数=45分)あった音楽の時間を35時数(例 中2)に半減させたのです。教育現場では、ただでさえ少ない授業時数の中で、慣れない和楽器の指導や、校内合唱コンクールの練習に時間が取られ、鑑賞時間がほとんど取れないのが現状のようです。
学校教育の中で、クラシック音楽を鑑賞する時間が取れなければ、家庭にその環境を求めるべきとの声もありますが、そもそも家庭でクラシックを聴く環境が無いから学校で鑑賞してきたのです。今さら家庭に依存するには無理があります。
結果として、今の中学生は学校でも家庭でもクラシック音楽を聴く機会が極端に少ないのです。これは情操面から見ても本当に不幸なことと言わねばなりません。
感受性豊かな中学生時代に、クラシック音楽に触れる機会をほとんど無くしてしまった教育制度がクラシック衰退の一因であることは明らかです。
★ 対策
1.文科省の新学習指導要領を改定して、中学音楽の鑑賞時間を増やす(年間70時数に戻す)。
2.各中学校にサークル活動として、ジュニアオーケストラを結成する。
3.PTAなどが助成して、一流のクラシック演奏を聴く機会を作る。
若者のクラシック離れの主原因は、中学の鑑賞時間の大幅削減だと思われます。若い世代がクラシックを聴かなければ、早晩クラシックコンサートは成り立たなくなります。もう時間がありません。音響設備の良い環境でCDを聴かせてあげて下さい。DVDなどの映像も効果的です。その際、間違っても感想文などは強制しないで下さい。そして、音楽室に楽聖の古い肖像画を掛けるのは止めて下さい。
日本古来の伝統音楽も大事ですが、先ず今は西洋音楽に焦点を当てて下さい。また、合唱や吹奏楽も良いですが、出来れば希望者を募り、オーケストラを結成して下さい。ジュニアオケは青少年の情操に最適です。保護者も含めてクラシック音楽への興味付けになるでしょう。
さらに、すでに実施されていますが、PTAが中心となり、生の演奏を聴く機会を設けて下さい。その際は一流が条件です。子供たちは一流の音楽にしか反応しません。下手な演奏はかえってクラシック嫌いを招き逆効果です。
■ 原因その5 漂流する音楽家の卵 音大の功罪
日本では、戦後の高度成長期に、電気オルガンやピアノが飛ぶように売れ、音楽教室に通う子供が急増しました。親は自分が叶わなかった夢を子供に託し、ピアノやヴァイオリンを習わせました。
音大や音楽科の設立が相次ぎ、優秀な生徒を数多く輩出するに至りました。世界に通用する日本人音楽家も生まれました。このことは、日本の音楽教育の水準の高さを証明しており、音大の功績は大なるものがありました。医大を出てやがて医者になるように、音大を出て音楽教師や音楽家になるのは当たり前の時代でした。
しかし、出生率の低下で子供の数が減ると同時に、習い事は多様化し、子供の個性が重視される世の中になると、音楽を習う生徒は減り続け、音大の経営を脅かすようになりました。
また、音大を卒業しても音楽家はおろか、講師にもなれないほど音楽の世界は縮小してしまいました。もう社会に音楽の受け皿がないのです。
音大を卒業して、ユニクロに就職したなどと言う例がある一方で、音楽の道を捨て切れない卒業生が年々増え続けています。その多くは自宅で教えたり出張レッスンをしたり、結婚式場でバイトをしたりと細々と生計を立てているのです。
音楽だけでは食べていけないのでプロとは言えず、かと言って専門教育を受けているのでアマチュアとも違います。世にいうセミプロというカテゴリーになりますが、このような音楽家の卵を大量に生み出してしまった音大はどう責任を感じているのでしょう。
ある有名音大の卒業生の進路(2013年) まだ3割が音楽関係に就職している
音大の行き詰まりが、音楽への夢を遠ざけ、クラシック音楽を勉強する意欲を無くした一面は否定できません。クラシック音楽衰退の第五番目の原因は、漂流する卒業生を大量に生み出した音大にありそうです。
★ 対策
1.音大は音楽家を養成する以上は就職に責任を持ち、音楽市場の拡大に努める。
2.学生には、音楽と同時に社会性が身に着くよう教育する。また卒業生の追跡調査を実施する。
3.音楽市場拡大のため、出版社、レコードメーカー、ホール事業者、音楽事務所などと協力体制を構築する。
日本の少子化が、音大の経営を圧迫した最大の原因です。出生数は、もう40年以上も減少し続けているのに、音大は有効な対策を講じてきませんでした。
一部の国公立の音大を除き、多くの音大では生徒の獲得に必死になるばかりで、入口(入学生)の対策には懸命でしたが、出口(卒業生)の対策を怠ってきました。自立出来ずに「漂流する卒業生」は年々増加しています。
今、音大に求められているのは、卒業生の受け皿となる「音楽市場の拡大」です。具体的には、地域と連携した音楽イベント、成人や高齢者向けのコンサート企画、TV局とタイアップしたオーディション番組の制作、新しい音楽ジャンルの研究、音大直営の音楽制作会社の設立、音楽ソフトの開発、音楽検定の再構築、音楽療法の研究、音大施設の開放・貸出し、など思いつくだけでも多数あります。もちろん、すでに実施されているものも多々あり「言われなくても分かっている。」とお叱りを受けそうですが、それでも,もし一考に値するものがありましたらご検討下さい。
◎あとがき
今日のクラシック音楽界が抱えている問題、とりわけ「クラシック音楽の衰退」について、以前から漠然と考えていた私見をこの機会にまとめてみました。
読み返してみると、かなり独善的で偏った部分もあり、実現不可能な提案も多く含まれますが、その点は個人的見解に過ぎませんので、何卒ご容赦いただきたいと思います。
ただ、聴衆が高齢化している現実を目の当たりにすると、あと数十年で、クラシックのコンサートは成り立たなくなるのではないかと不安になります。特に地方では深刻な問題です。
実は、世界有数のクラシック音楽市場である東京でさえ、クラシック人口を減らさないよう、行政や企業、音楽団体などが、さまざまな取り組みを行っています。(そのことは改めて触れさせていただきます。)
手遅れにならないよう、音楽関係者の英知を結集して、その対策を講じていかなくてはなりません。その意味で、当ブログの問題提起と対策が、少しでもご参考になれば幸いです。
ご参考 音楽産業の多様化と行方
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