第九 日本初演の日
11月29日は、日本での第九初演の日である。
近年、徳島県鳴門市の収容所にいたドイツ人捕虜が、1918年6月1日に初演した事実が明らかになったが、この時は収容所に女性がいなくて、独唱も合唱もオール男性用に編曲されたらしい、楽器も足りなくて、オルガンで代用したとされる。したがって、これを初演と呼ぶには異議を唱える研究家も多い。
公式な初演日は、1924年、11月29日。東京音楽学校(現東京藝術大学の前身)のメンバーにより大盛況裏に行われたとされる。指揮はドイツ人のグスタフ・クローン(彼はベートーヴェンの交響曲9曲のうち6曲を本邦初演した)。
それ以後、日本でどれだけの第九が演奏されたか知る由もない。
しかし、間違いなく歴史に残る演奏会は、1979年10月21日(普門館)のカラヤン、ベルリンフィル、ウィーン楽友協会合唱団、アンナ・トモア=シントウ(S)、ルジャ・バルダーニ(A)、ペーター・シュライヤー(T)、ホセ・ヴァン・ダム(B)だと思う。
幸運にも、当時28歳の私はこの演奏を聴く機会に恵まれた。
演奏は完璧に近かったが、ややまとまり過ぎて迫力に乏しく、歴史的名演とは言えなかった。 しかし、二度と実現しない超豪華キャストによる夢のコンサートを聴けたことは、望外の喜びであった。
後になって知ったことだが、親しくしている友人が、このコンサートを聴いていた。彼女は当時まだ中学生になったばかりだった。小さい時から一流の演奏に触れることで、本物が分かる大人になれると思う。東京のコンサート会場で、時々そんな光景を私は見てきた。
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